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管理日記

2010-04-28

騎士候補生たちのアイデンティティ・クライシス

00:43


アトルニアにおける騎士とは、モンスター危険種)から人々を守る存在です。

洞窟に入ったらモンスター出るし、森に入ったらモンスター出るし、湖に行ったらモンスター泳いでるし、騎士団のお仕事でいちばん大変なのはモンスター討伐、みたいな世界なんですよ!

http://d.hatena.ne.jp/chika_kt/20061019

「この国の騎士団は元々は土地と人を危険種から守るために作られたものだ」

「自分以外のものを守るために」

リゲイン act72

ランドリの世界において、モンスターは人間の生存を脅かすものであり、それに対抗する戦闘集団が騎士なのですね。

騎士でない人たちはモンスターと闘う技術を持たないので、騎士は彼らを守らなければなりません。闘うすべを持たない人を守るのだという自負が、“騎士道”の核であると思われます。

人を守ることを崇高な使命としてとらえ、そこに自分の命よりも大切な価値があると信じられるからこそ、騎士は死ぬかもしれない闘いに身を投じることができるのです。騎士にとっては、騎士道精神はまさに“死活問題”でしょう。それはもはや信仰とよべるものかもしれません。


14巻ex2では、騎士(候補生)でないライナスが他の生徒を守るためにスピンドルと闘っていたことが明かされます。このことは、シメオンという騎士候補生にアイデンティティ・クライシスをもたらしました。

ライナスの行為がシメオンの中にあった“騎士”のイメージの根幹を崩してしまったのです。その根幹とは、

・騎士だから守るために闘う

・守るために闘うから騎士である

ということです。*1

騎士の「闘うのは義務であり権利である」というのもこういうことです。騎士であるがゆえに闘わなければならない、これが義務。闘うがゆえに騎士でいられる、これが権利。

だから、ライナスの行為はシメオンを混乱させます。騎士ではないのに闘ったライナスはいったいなんなのだ、と。闘ったライナスが騎士ではないというのなら、いったい騎士とはなんなのだ、と。

ライナスも剣術の訓練をうけていたわけですが、意識においては線を引かれていたのですね。訓練を受けているとはいえ、ライナスは騎士でないので、人を守るために闘うようなことはしないだろう、と思われていた(これはシメオンの台詞「君は逃げるか隠れるかするかと…」にあらわれています)。

結局のところ、騎士になれるかなれないかは出身階級によって決められてしまうわけですが、シメオンはそういう差別的な社会制度に直面したことがないのでしょう。社会のそういう面を意識するのは、男子よりも女子のほうが早いと思われます。なのでトリクシーは「男子って子供っぽい」と思ったのでしょう。


ライナスが闘っただけでこうなのですから、アカデミーの女子生徒が闘うなんてことは、想像もできないでしょう*2。そのため、イオンは自分の戦闘能力を知られることを怖れていました。特にカイルに知られてしまっては、もう生自分を“レディ”として見てくれないだろうと思ってビクビクしていました。

ジアはこの世界の理想的な淑女です。フィジカル面でもメンタル面でも純粋な愛でもって騎士を崇拝し、無垢な希望を語ります。騎士は私利私欲のためでなく「自分のレディの理想の実現ために」がんばるということになって、騎士道これすなわち愛のために正義や平和や真実に尽くすってことになるわけです。

http://d.hatena.ne.jp/chika_kt/20090525/p1

実際、カイルの認識もこれにピッタリと収まっていたことでしょう。——駆けつけてきたイオンact65)を見るまでは。

イオンのやっていることは、ランドリ世界の理想(R・ケリーが教えるような理想)とは正反対のことです。しかしカイルイオンを受け入れました。自分の命を賭けると誓った相手のことをどうして否定できましょうか。

闘うイオンのことを受け入れたとき、カイルの価値観はその根底から塗り替えられ、彼の中での“騎士”の意味は永久に変化してしまったのです。「神よ!」という台詞は決して大げさではありません。


我々読者は、シメオンの、カイルの、その他の登場人物の、生を変えたできごとを目撃したのです。




命を賭けて闘っているのは騎士だけではありません。しかし、平民は“従”騎士にしかなれませんし、傭兵は自らの利益のために闘う者ですし*3ニンジャは主君のためだけに闘う者です。

崇高な目的のために闘うというのは、騎士にのみ許されたまさに“権利”だったのです。

しかしこれは変わりつつあります。

“騎士に守られる商人”であるとか、“騎士に守られる女性”といった、騎士ではない人々の存在が、騎士を騎士たらしめているという側面もあるわけですが、ライナスイオンは「私たちはただ守られるだけの存在じゃない」ということを突きつけました。

また、エカリープでは、騎士でない人たちがモンスターから人々を守るために闘っています(act74)。騎士の“権利と義務”を、騎士でない者が担っているのです。

“騎士以外”が変わることで“騎士”も変わっていくのです。


アカデミー騎士団に所属する“騎士”は、おそらくアトルニアの歴史上に存在したいかなる騎士とも異なる存在です。大人たちを模範にしつつ、その思想に違いがあります。

「彼女はお姫さまじゃなくて… 騎士なのかも 本物の騎士」

(ティティ 14巻ex1

お城で騎士の帰りを待つお姫さまのために闘うのではなく、戦場で渦をぶっ放すお姫さまの背中を守るために闘うのがアカデミー騎士団です。

現在のアトルニアの騎士や、現実世界にかつて存在した騎士を基準にしたモノサシでアカデミー騎士団をはかるのは誤りです。

*1:これはトートロジーです。「あなたはなぜ闘うのか」の答えは「騎士だから」であり、「あなたはなぜ騎士なのか」の答えは「闘うから」である。

*2傭兵ニンジャに女性がいることをは知ってはいても、騎士が守るべき存在だとは思われていないでしょう

*3:「金のために戦って 自分の命を守るためならなんでもした」(ファレル act72

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