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管理日記

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2009-02-03

アニューラス“ジョーカー”バラライカ――「ダークナイト」と「Landreaall」

| 23:10


今日は手品なんてどうかな?

アニューラスバラライカは、実は「ダークナイト」のジョーカーにとってもよく似ているということを証明してみせよう。


(ここから先は、「ダークナイト」のネタバレがあるので、未見の方は注意してください。)


ジョーカーの目的は何か


「ダークナイト」のジョーカーは、はっきりと目的を持って行動しています。しかし、それは金や権力などではありません。

では、何なのか。

『ダークナイト』のジョーカーの犯罪の「動機が明示されない」から「狂人にしか見えない」と文句を言ったりする。

ジョーカーは「動機なき犯罪を繰り返す狂人」なんだよ!

でも、実はその犯罪には、人々が信じている善悪のモラルに挑戦するという哲学的な意味があって、それがこの映画のテーマになっているのだが

ポッドキャスト「町山智浩のアメリカ映画特電」、今週は『ダークナイト』のジョーカーと、ミルトンの『失楽園』のサタンについて話します。

――『バットマン』(89)のジャック・ニコルソンが演じたジョーカーは、最初に復讐すべき対象が存在していましたが、今回のヒース演じるジョーカーには復讐すべき対象は明確ではなく、攻撃は無差別的です。このジョーカーにとって、世の中とはどういうものなのでしょうか?

チャールズ :「彼の目的というのは、世の中を自分の手によって混沌たる状態にするという事です。普通の社会において、きちんと仕事をし、社会の中で機能し、自分はいい人間であると信じている人たちを破壊させてしまうのがジョーカーです。」

彼は快楽殺人者ではない。殺人も彼の「演出」の部に過ぎず、殺しは厭わないが、それはあくまでも自分の目的を果たすために行動しているに過ぎない。それは・・・「世界を混沌で満たすこと」だ。

ブルース・ウェインが口にする、ジョーカーに対する「勝ち/負け」の概とは、彼がバットマンとなって以降行ってきた「正義の伝道」を民衆が肯定するか否定するか、ということである。

彼の狂気の本質は「頭の回路がおかしくなる」というたぐいのものでは決してない。ものすごく冷静に自己を狂気を如何に相手に冷静に伝えるか、その冷徹なまでの計算を行い、それにしたがって行動している。

大胆不敵な行動力、嬉々として悪意にいそしんでいるだけの「フリーク」に見せるか、という自己演出を本能で「演じる」天才。それこそが「ジョーカー」。

世界を演出する劇場型の悪役

人々の倫理の上にある価値観を暴力的に重ね塗りして消し去ってしまう、「作品の意志」を形象化したヴィラン(悪役)

金や権力など目もくれず、ある世界に人々を誘うことそれ自体を目的とするタイプの観型悪役

世界に認識の変革を迫るヴィジョンを演出することで、ある事物の本質を抉り出すことそのものを目的とし、どんな現世利益的な欲も動機や目的にはしない、そんな悪役。世界を支配するのでもなく、政治的な目標を達成するのでもなく、金をもうけるのでもなく、ただある世界観を「われわれ」の世界観に暴力的に上書きする時間を演出する、それだけを目的とした悪役たち。それが「世界精神(ヴェルト・ガイスト)型」の悪役(というか、敵役、と言ったほうがいいのかもね)だ。

ある物事を主人公たちに見せつけることそのものを目的とし、その見せ付ける過程が映画になってゆく、そんな悪役を「世界精神型」と呼ぶ。

で、実はアメリカ映画にはこの種の悪役が皆無に近い。大体が金と権力でウッシッシに留まる。まあ、こういう身も蓋もなさのほうが現実的ではあるのだし、どっちの悪役が優れていると比較したいわけじゃないんですが、単純に、世界精神型の悪役はアメリカ映画にはほとんど存在しない。


たとえば、劇中でジョーカーは、バットマンが正体を明かすまで市民を殺していく、と恐喝してきます。

普通なら、バットマンを倒すために正体を暴こうとしているのだ、と思うでしょう。ですが、実はジョーカーが打倒したいのは、「市民がバットマンを支持している」という状況そのものなのです。正体を明かさないバットマンを市民が憎む、という状況を作り出すことが、ジョーカーの狙いです。

このため、ジョーカーは後になって、バットマンの正体が明かされてないのに唐突に恐喝を撤回します。そして別の内容の恐喝を仕掛けてきます。その方が「混沌」とするという理由で。


アニューラスの目的は何か


まずは、アニューラスの目的を知るために重要だと思われる台詞をいくつか引用しておきます。

「このお方こそ私が捜し求めていた男(ひと)かもしれません」

(act7)

「今の私の使命はあなたという人間を見極めることです どうなれどうあれなどと言いません」

(act48)

「私は玉階です 今はDXさまの成長だけが望み…」

(act59)

「これからもあなたが正しいと思うことをするためにこの切り札を使うしかないという時が来ますよ きっとね なぜなら あなたが骨の髄まで傭兵だからです 手段を惜しんで目的を諦めるなんてできないでしょう?」

……

「あなたの首に鎖がついたってわけじゃありません 今回はね」

(act60)

「私はできればDXさまに望んで円卓に起って頂きたいんです」

(act25)

DXさまに何かをさせたのでなかったならあの… しめたという顔は誤解を招くと思いますが…」

……

「そんな顔してましたか? … 悪かった 本当に」

(act60)

円卓は 玉階が自分の候補者を褒め合って競争する場ではありません いいところも悪いところも公平に検討して王を選ぶんです」

「理想論だなアニューラス

……

「今理想を唱えて何が悪い!」

(act33)

「王になったら絶対的な権力が手に入るわけではありません 議会が力をつけていますからね それに私が推挙してあなたが王になっても 私がその恩恵で私利私欲を満たせるわけではありません 玉階の権限などたかが知れたものです では何故 私が玉階であなたを推挙しようとしているか… …それはいつかわかってもらえるでしょう」

(act33)

「俺はアンちゃんが望んでるような人間じゃないと思うよ」

「私の望みなんか知らないクセに!」

(act48)

アトルニアは面白くなるぞ!」

(act33)


アニューラスバラライカは、なぜDXを王に推挙するのか。その動機・目的はまだ明かされていません。

本人の弁によれば、権力を得るためでも、私利私欲を満たすためでもないといいます。そのようなわかりやすい欲望ではないと。

では、何なのか。

私は、ジョーカーと同質のものなのではないだろうかと思います。アニューラスの目的は、アトルニアの人々の認識・倫理・世界観を上書きしてしまうこと。社会のモラルに挑戦するヴィジョンを演出することである、と。


人の意識を塗り替えてしまうということは、DXイオンが意図せずに行っていることです。

たとえば、「ニンジャは人ではない」という、Landreaallの世界では当然とされている認識を、六甲に関してはひっくり返してみせました。

また、「貴族は恋愛結婚などできない」という、アカデミーの級友たちが当たり前のように受け入れている認識に対して、猛然と反発しています。

DXは、アニューラスの“目的にかなう”人物なのです。だから王に推挙しようとしている。


すでにアニューラスDXと共同で人の意識を変えつつあります。

フィルのためにDX従騎士の練習につきあっていましたが、アニューラスゼクスレンに推薦状を書くことでサポートしています。

竜胆のためにDXウルファネアに向かいましたが、アニューラスも同行してアカデミーの書類を用いてサポートしていました。

DXアニューラスの働きかけによって、フィル竜胆の認識は変わりました。


アニューラスは、DXを王にすることによって、彼が普段から周りの人物に行っていることを、国家レベルまで拡大しようと目論んでいるのだと思います。

アニューラスが権力や私利私欲に惑わされないのは、理想に心酔しているからではありません。DXを王にできればそれでいいのだとしたら、本人の意向を無視してでも王に推挙するでしょうし、円卓でもDXを褒めちぎることでしょう。ですが、それでは決して、アトルニアの臓腑を抉ることはできないのです。DXが自ら「望んで円卓に起って」、「いいところも悪いところも公平に検討」した上で王になってはじめて、アニューラスの目的は達成されます。DXフィル竜胆にやってきたことを、国民全員に対して仕掛けることができる。アトルニアの姿を永久に変えてしまうことができる。

このためアニューラスは、DXの信をねじ曲げるようなことはしませんが、その方で、王になるつもりのないDXが自分から王になることを望むように誘導するわけです。誘導ではなくて誘惑といっていいかもしれません。

アニューラスは、王の使命に目覚めるようにDXを誘惑しているのです。ジョーカーが、憎悪に目覚めるようにゴッサム市民を誘惑したように。*1


アニューラスとジョーカーの共通点


・過去

ジョーカーは、指紋もDNAも登録されておらず、口が裂けた理由について説明するときもデタラメしか言いません。いわば過去の無い存在です。

アニューラスも、はじめは何者なのか明かされていなかったですし、玉階だとわかった今でも過去については切説明されていませんし、なにより性別が不明です。謎の多いキャラクターです。

アニューラスが、ジョーカーと同じように、自分の性別についてあることないこと語り出すようになるかもしれません。

アンちゃんがにこにこして私は実は

私は、ギャー、そうだったのかー!!


・笑顔

ジョーカーは、口が切り裂かれているうえにあのメイクなのでインパクトがありますが、それにも増してすさまじい狂気めいた笑顔を向けてきます。

アニューラスも、ときどきものすごい表情をしますね。act36での、カイルを焚きつけてイオンをエスコートさせることに成功したときの、あの表情。act59での、「~さえしなければァ」のときの、あの表情。

二人とも実に腹黒い。


・主人公との出会い

もとはチンケな泥棒だったジョーカーは、バットマンと張り合うことによって、あの域にまで高められました。"You. Complete. Me."*2――ジョーカーがバットマンに向かって言う台詞です。

同じことがアニューラスDXの関係にも当てはまるでしょう。DXに出会わなければ、アニューラスがその権謀術数の手腕をフィル竜胆のために振るうこともなかったのです。


・おもしろ

アニューラスDXに目をつけたのは、ぶっちゃけ面白そうだったからでしょう。

議会円卓のメンバーも君は継承権を放棄するつもりなんだろうと思ってたんだ」

……

議会円卓も水面下で君の出現に触即発の緊張状態だ 大勢の人間の運命を変えるし命のやりとりもあるかもしれない」

(act24)

「割れた陶器を元の形に整えたって具合の国に花火を放り込むようなもんだ」

(act45)

陶器を割ったのはリゲインです。王をぶっ殺すわ、自分が王になれるのに議会にまかせて王制を崩壊させるわ、傭兵と結婚して辺境の領主になるわで、かなり破天荒な人物です。そのリゲインの息子を王に推挙するなんて、ワクワクしてきますね。

で、なんか面白そうだったので会ってみたら、期待以上の逸材だったわけです。これはもう推挙しない手はない。

ジョーカーは、バットマンのいない世界はつまらないと言います("I had a vision. Of a world without Batman."(中略)"it was so... boring."*3)。アニューラスも、DXのいないアトルニアを想像すれば同じように感じることでしょう。

見る人によっては、アニューラスのやろうとしていることは、アトルニアを混沌に叩き込むことに他なりません。実際に、

「戯れ言を!! 傭兵の息子が王になど…」

(act31)

と言われたりもします。まさに"agent of chaos"*4。しかしアニューラスはこんな意見を聞いても、内心"Why so serious?"*5と思っているに違いありません。


まとめ


ダダーン。アニューラスはジョーカーでしたー。

最後はちょっとネタっぽく書いてしまいましたが、大マジですよ。


なぜジョーカーが人々の胸を打つのかといえば、命がけで人を変えようとするからです。病院でジョーカーとデントが会話するシーンがその白眉ですね。やっていることは悪いことでも、人の魂を揺さぶるその姿には感動を覚えずにはいられません。

世界を変えるために人の魂を揺さぶるキャラクターを活き活きと描写している、という点で、「ダークナイト」と「Landreaall」は通底しているのです。


オマケ


「ダークナイト」の台本はPDFでダウンロードできます。しかも全文!

本文で引用した台詞は全部この台本からです。

ちなみに、日本語版には、有名な誤訳があるので紹介しておきます。台本130ページのジョーカーの台詞、

And you know the thing about chaos, Harvey?

It's fair.

が、日本語字幕とDVDの吹替えでそれぞれ、

何が混乱を起こす?

恐怖だ

混沌の本質がわかるか?

それは恐怖

となっていました。"fear"と間違えたようです。

"It's fair."だから、後の"It's about what's fair."(台本161ページ)に繋がるわけですよね。

また、直前の「ギャングや兵隊が死ぬといっても誰も驚かないのに、市長が死ぬと言えば大騒ぎになる」みたいな台詞*6にも繋がると思います。秩序に組み込まれた奴は人の死にすら序列をつけるが、混沌は「公平」なんだ、といった感じで、会話の相手にいかにもふさわしい内容ですよね。

な誤訳です。


図書館でキネ旬のバックナンバーを読んでると、面白い話がありました。監督によると、病院のシーンで、ジョーカーがレイチェルの名前を思い出せずにいて、デントがキレて「レイチェル!」と叫ぶあのシーンは、アドリブだったのだそうです。確かに、そのシーンに該当する台本128ページを見てみますと、"you and Rachel"とすんなりと言うようになってます。すげえ。


ミルトンの『失楽園』を図書館で借りて読んでまして、まあ読破できるかはわからないんですけれども、面白い部分がありました。

審判者は

「混沌」であったが、彼の裁定はこの騒擾をいっそう混乱に

陥れるばかりであった。混乱させることこそ、彼の主導権維持の

秘訣であったからだ。彼についで高い裁定者の座につき、

切を統べていた者に「偶然」がいた。

(ニ・九〇六)

混沌と偶然ですよ。ジョーカーが「混沌」の使者を名乗り、トゥーフェイスが「偶然」によって人を裁いていたことを考えると、何か示唆深いですね。


最後に。なんと、「ダークナイト」は今、劇場で再上演中です。

今週の金曜日が最終日なので、慌てて丸の内ピカデリーまで見に行きました。

*1:サタンが、自意識に目覚めるように人間を誘惑したように……というのも書こうかと思いましたが、ミルトンの『失楽園』は未読なのでやめておきます。

*2:意訳「お前が、仕上げるんだ。俺を」。台本103ページ。

*3:台本123ページ。

*4:"I'm an agent of chaos."。台本130ページ。

*5:意訳「なに深刻になってんだ?」。台本41ページ。

*6:これはランドリ世界に置き換えると、「ニンジャが討たれるとかクレッサール人が虐殺されるとか言っても誰も驚かないのに、国王が死ぬといえば大騒ぎだ」といったところでしょうか。リゲインは実際にこのようなことを言われたことがあるかもしれませんね。

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